『属人化は悪だ』としたり顔で言っている経営者への伝言
『属人化は悪だ』としたり顔で言っている経営者への伝言
まず、属人化は悪だ、属人化はなくさなければならない、と、『自らのシステム開発現場での経験を基にして』、主張しているのであれば、何も反論はしない。その通りだと同意しよう。
しかし、私が思うに、特に大企業や大手クラスのIT企業の、ほとんどの経営者たちは、『自らの経験から』は、言っていない。
何故ならば、もともとはシステム開発とは異なる畑が出身の人たちばかりだからだ。
『属人化は悪である』という事は、本で読んだか、近しい部下や後輩から植え付けられた知識にすぎない。自らの経験から産まれた経験知ではないのであれば、それは役には立つまい。
『属人化が理想の姿ではない事』は言われなくてもわかっている
属人化が理想の姿ではない事は、この業界の中に居る者は誰でもわかっている。リーダーやマネージャーを経験したことがあるなら、なおさら、それはわかっている。
私の短い社会人経験からだけで言っても、20年は前から言われてきた事なのだ。
つまり、改めて言われるまでもなく、属人化が理想とは異なる事は、皆わかっている。
それなのに、である。
経営者からの問題提起として、
属人化の排除
人事ローテーションの促進
などと言われると、本当に、がっかりする。
あなた方には見えていないのだろうか?
いま、多くのユーザー企業、特に大企業において発生している、『属人化』よりもはるかにおそろしい事態を。
『属人化』よりもはるかにおそろしい事態『空洞化』が進行している
おそろしい事態。
それは、『空洞化』だ。
大企業の本社側の人間が官僚化し、『定期人事異動』によって、コロコロと入れ替わる。
そこには、もはや、ノウハウを蓄積するという機能は完全に失われている。人事異動のたびにその部署に蓄えられつつあった知識は消え失せる。"リセット"だ。
そのような状態でも業務が回っているのは、優れた仕組みやルールがあるからではない。
単に、実作業のほとんどを現場側や委託先企業に、『丸投げ』しているからだ。
『空洞化』に至ればもはや回復はない
一度、『空洞化』状態に陥ってしまったなら、その状態から自力での回復はない。
ドキュメント化を高める事自体は良い事だろう。しかし、それでも、『ドキュメントを探し出す能力』や『ドキュメントを読み解く能力』は、絶対に必要なのだ。
素人をいきなり連れてきてどうにかなるような甘い世界であるはずがない。
現場側や委託先の誰かが『属人化』状態であってでも、知識を持っていてくれるならまだ良い。
そうした人が知識とともに他に移ってしまい、永久にノウハウが失われるという最悪の事態が、現場では発生しているのだ。
理想ではないが『属人化』から少しずつでも"継承"をして有識者を増やすのが善策
『属人化』が問題視されるのは、その人数が少ないからだ。
一人しか居ない。それが問題なのだ。
ならば、一人を二人に、二人を四人に増やせば良いのだ。
知識・ノウハウを"継承"して行く活動しかない。早道などはないのだ。
それを地道にやろうとしている現場のマネージャーやリーダーを無視して、下手に人事ローテーションなどやってみろ。
全てが台無しになる。
だから、付け焼き刃の知識だけで、『属人化は悪だ』などとしたり顔で言うな。
“人を『人財』であると思い、大切に扱う。”
あなた達が、まだ現場で"課長"や"部長"などの管理職であった20数年前。
人を『交換可能な部品』として扱い始めた事で、『失われた20年』が始まってしまったのだ。
それを自覚し、反省し、単なる浅い知識だけで、『属人化は悪だ』などとしたり顔で言うな。